ボンヴィヴァン(伊勢外宮前 ボンヴィヴァン)

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プロフィール 河瀬毅 



■饗宴(08.11.19)

饗宴。伊勢の地に根ざしたレストランのシェフによる夢の競演。たった一日の限られた夢のひととき。
うましくに伊勢シェフクラブ 饗宴10月13日。我がレストランの中庭にそれぞれののシェフ、マダム、スタッフたちが集結しました。
秋空の下、うましくに伊勢シェフクラブのメンバー全員が、自慢の菓子や料理を持ち寄り、お客様に 販売しようという試みです。
普段は厨房の奥に陣取り、料理だけに集中している、はにかみ屋さんのシェフ達も、この日ばかりは そんなことも言っていられません。 目の前の溢れるほどのお客様に声を掛けて次々と商品を手渡すのですから。
パンパーン!クラッカーの音も景気よく10時ジャストに開演。
友情出演してくれたサパトスの軽快な 演奏をバックに僕たちは噴水の前にズラリと勢揃いして、お客様を迎えました。
いらっしゃいませ。足もとにお気を付けください。いらっしゃいませ。次々と来場されるお客様を目の 当たりにして成功の予感を胸に抱きながら、晴れ晴れとした気分の笑顔は、我ながら自然に振る舞えたと思います 。
・・・と、ここまでは良かったんです。 順調順調。物事が筋書き通りに進んでいることに安堵を覚え、僕は心の奥で、ほくそ笑みました。

仔羊を焼くボンヴィヴァンシェフさて、そろそろ仔羊でも焼こうかなと、自分のブースを覗く。すると早くも人だかり。しかも長い列が 出来始めている。
仰天。
大慌てで持ち場に付く僕。その後は、いらっしゃいませ。ありがとうございました。 熱いので気をつけてください。このみっつのフレーズだけで一日が終わったような気がします。
僕たちは想像以上の人出に面食らいました。
いや、正直申し上げると、俺達が旗揚げするんだから そりゃぁもう一杯の人で、ごった返すぞ・・・なんて酒場でグラスを傾けてほざいては、いたんですが ね・・・。
自信の割には実力無しか・・・。運営方法や、駐車場でご迷惑をおかけした皆様には、心から謝ります。
しかし 僕たちは、能天気に良かったよかったと打ち上げた花火に自己満足している訳ではありません。
反省すべき点を洗い出し更なる進化を目指します。どうか懲りずにご勘弁をお願いします。
とは言うものの子供たちの目の輝きや人々の笑顔。美味しかったよの言葉を頂戴して心は少女のようにウキウキしていたんです。
本当に楽しかったのですから。 初めてこの催しの話を聞いた人には突拍子もなかったかも知れません。普段は、お互いに切磋琢磨する競争相手です。
年代も修業場所も料理哲学も違うし、好みの女性のタイプだって千差万別。それで上手くまとまるの?そんな心配事も出てきそうですよね。
しかし僕たちは、2月に初めて集まったばかりなのにトントン拍子に話が進み、 すでに伊勢の星を集める散歩道と称するポイントラリーを開催していたのです。
この時も何度も話し合いました。こじれそうになりかけた事もありましたっけ。
正直言って、何の問題もなくここまで来たのかと問われると、そうでもなかったような気がします。
しかしそのおかげで僕たちは、一つの目標に向かって知恵を出し合い協力し合う楽しさを知り得たし、 どうにもままならない困難に対しては一歩下がって、発展的妥協術を覚えることができました。 
それと並行した饗宴の準備。もちろん初めての試み。ま、これもみんなの力で乗り越えるぞ! と、気合いを入れての打ち合わせは、いつも10時半スタート。
えっ遅い? いえいえ、この時間でも僕たちにとっては早い方なんですよ。
普段の終了時間は、こんなもんじゃないんです。 お客様に料理を出して、デザート、コーヒーと進み、片付けをしていたら11時、12時なんてザラにあります。
なので一旦店を飛び出して打ち合わせを済ませてから、再び厨房に戻って仕込みを再開する、なんてシ ェフも多数います。
しかし、連帯と言うものは、骨身を削り心身をすり減らせてこそ絆が深まるもの。
もちろん偽善的で あってはいけないし、そんな解釈なんて無用な所で友情は芽生えるものなんです。
とにもかくにも僕たちは、時間をさいて綿密に計画してあの日、申し分のない天気の中、最高の気分でお客様をお迎えしました。 そして、シェフ同士の友情とマダム、スタッフを交えた連帯感を掴み取りました。 もうそれだけでいいじゃない。
充分。

これからも果てしなく続く、伊勢のレストラン道を声を掛け合い励まし合って歩ける仲間が出来たんですから。
大盛況の中、無事に饗宴が終わり、僕たちは70人ものスタッフと一緒に達成感の喜びの中、打ち上げました。
心地良い疲労感。今だ興奮覚めやらぬ胸の高なりと共にワインのコルクは、次々と抜かれていく。
饗宴が伝説となってもいい。この催しが懐かしく人から人へと語り継がれていくだけでもいいのかなとも思う。
僕たちは、あの日、あの晩、たった一日の間にこんなにも思いを共有したのだから。
まっさきに伊勢の星を全部集めてくださったお客様に招待券を贈る手筈です。
でも各レストランの労力には、シェフクラブから換金は、出来ません。
作り損?いえいえどのシェフもそんなことは思っていません。ただ、確認のつもりで、シェフ全員に配信したのです。
料理を担当するかも知れないシェフの方々。ご苦労さんです。
大損しなければいいし、ちょっとの損や労力は勘弁してください。
もともと心意気で意気投合したんじゃないでしょうか?それぞれのメンバーの労力や苦労の見返りは、この際、無しでいきませんか?と、問いかけました。 すると間もなく、とあるサムライシェフから返信が届きました。

彼とは、長年、伊勢のフレンチを走り続けてきた、ライバルです。

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河瀬シェフが言われる心意気を燃料に、ここまでやってきて、饗宴でもいい汗をかくことができました。
僕も散歩道の全店制覇の、それも先着5組の方には、心意気や夢をお返ししたいと思います。
僕がもし名誉ある指名をいただいたなら、シェフクラブの皆さんから託された材料費を手に、代表選手として、誇り高く戦いたいと思います。
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と、書いてありました。

同志よ同志。僕は、この街にレストランの陽光が陰ることはないと確信した。



 

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