ボンヴィヴァン(伊勢外宮前 ボンヴィヴァン)

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プロフィール 河瀬毅 


■天性のサーヴィスマン

昔々、私が通い詰めたチャイニーズレストランにペランペランの上着を着たホール担当の若者がおりました。
ペランペランですから、当然下っ端。
繁盛レストランでした。彼の上には恐らく何人もの先輩ギャルソンとマネージャーや支配人がいたと思われます。

あの頃のことを思い出してみましょう。目をつぶり脳をこじ開けて、今から記憶を呼び起こしてみますね。
五十鈴川の土手。大きな駐車場。ガラスのドア。レジカウンター。みごとな調度品の数々。
そして客席に入ると人々のさんざめき。その奥にも部屋があり、あそこに通されると常連になったようで、ちょっと嬉しかった。当時のスタッフと薬膳料理を堪能したあの個室は、その又奥だったのかな?

ホールスタッフは・・・?うーん・・・浮かんでこない。あんなに沢山居たのにペランペランが余りにもインパクトがあり過ぎて、奴の顔しか出てこない。
それはそれは人懐っこい笑顔でした。私たちのテーブルに近づくたびに話しかけたくなるようなキャラクターでどんな雰囲気の場でも彼の登場で一発で流れを変えてしまうほどの勢いがありました。
私たちだけでなく、きっと沢山の人達を魅了していたに違いありません。
夢物語ですが、マダムと二人でよく言ったものです。「あんな男と一生をかけて仕事がしてみたい」・・・と

彼は、しばらく見ないと思っていたら、社内のいろんな店を回っていたようでした。
再会した頃は、上等の黒服をまとった押しも押されぬ堂々たるサーヴィスマンに成長しておりました。
もちろん屈託のない笑顔はそのままで。
客と店と言う関係で、度々行き来しましたね。もっともこっちが10回なら、向こうは1回の割合でしたけど。

イタリアンレストランの立ち上げも成功してほどなく食事にやって来ました。
「今まで、ご贔屓いただきましたが、昨日で退職しました」・・・と。
耳を疑いました。ショックと言ったほうがニュアンスが伝わるかも知れません。
何故って?私たちは彼の居るレストランで食事する楽しさが体にしみついてしまっていたからです。

フランスで有名な話があります。当時、謳歌を極めたマキシム。一時期低迷を続けたことがありました。
オーナーは、シェフを更送せずに評判のメートルドテル(給士長)を迎えたそうです。
有能で人柄も良かったのでしょう。みるみるお客様が戻ったと言う話です。

ある程度のレベルまで到達すると、料理の美味しい美味しくないは9割まで素材で決まります。
残り1割が情熱と思いやりです。
「あれ、技術は?知識は?」「もちろん必要です」でも取り立てていきまくものでもありません。
毎日の繰り返しの中で習得したものは、自分達にとってすでに普通。
また明日から新しい技術に磨きをかけるだけ。それにしても、失敗しても命まで取られることのないこの仕事にふんぞり返って威張る気持ちはもうとうありません。

さて、サーヴィスの力。
慇懃無礼なメートルドテルより、入りたてのように見えるギャルソン(男も女も共通でいきます)の機転の利いた行いや、さりげない会話に心を動かされた覚えはないですか?

ボンヴィヴァンについて語られる時に、よく接客をお褒めいただくことがあります。
いつも自然体のマダムの元、みんな楽しく働いているだけなんです。
もちろんお客様を不快にさせないことや、サーヴィスにおける技術的なこと、知識などは習得してのこと。
その辺は、料理についてお話したことと同じです。
このレストランが好きだから。・・・の強い気持ちが一番です。接客はハートが命ですから。

ひとつだけ他店と違うとすれば、ホールと厨房との垣根がないことでしょうか?
ホールスタッフは、ばんばん厨房に味見にやって来ます。もちろんでしょう。
いざ戦闘状態になったらお客様の矢面に立つのは連中なんですから。
知識よりも舌で覚えてもらいたいと切に願っています。

ですから、戦闘中は彼ら(彼女)が指揮官です。シェフ及び料理人は言われるままに、ひたすら美味しい物を作るだけ。
例えば、間隔があいて2回目の来店だったとします。お迎えした時は分らなかった。お客様も言わない。
ギャルソンが途中で思い出した。「シェフ、ソースも付け合せも変えてください。」「ウイ!」
歯の治療で堅い物が食べれないお客様。あれも食べられないこれもダメ。
注文を取っていたギャルソンは困惑しながらも、さっき食べたシェフの朝まかないのフレンチトーストを思いついた。
「フレンチトースト、シルヴプレ!」「ウイ!」
彼女の気転で今では、いつも注文を下さる常連様となりました。
ランチのオーダーストップを少し過ぎたお客様を玄関に待たせてはいけない。いちいち私に伺いをたてに来るなと言ってあります。
何故って?道に迷ったのかもしれないし何かの事情があって息せき切ってやって来られたお客様を、自分の判断で優しい笑顔と共に席に案内したギャルソンに「ノン」は、絶対言わないから。(男がすたります)

再び申し上げます。ボンヴィヴァンの接客に決め事はありません。人々が本来持っている優しさと同じ。
道に迷う人あれば誰でも導くでしょう。子供が泣いていれば頭を撫ぜる。
お年寄りが歩いていれば、ここに段がありますよとささやくように、私たちはいつも自然体で接客をしております。

そう言えば、自然体のサーヴィスマンの話が中途半端でしたね。
役員にまで昇りつめ退職後も引く手あまただった彼、林 孝久は今、支配人としてボンヴィヴァンを仕切っていますよ。もちろん相思相愛です。夢って叶うんですね。






 

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