ボンヴィヴァン(伊勢外宮前 ボンヴィヴァン)

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プロフィール 河瀬毅 



■花火(08.08.23)


夏の夜の風物詩。宮川の空を彩る花火大会は、伊勢神宮奉納花火大会として56回を迎えた歴史ある行事です。
僕は、この会場を見下ろす徳川山と呼ばれる地域に生まれ育ちました。自転車で駆け下りるのに5分とかからない宮川は、僕の心の故郷です。どんなに辛いことがあっても石垣の堤防に腰掛けてボーッと川面を見ていると心が癒される。
目を瞑ると脳裏に浮かんでくるあの頃の日々。
ギラギラと照りつく宮川グラウンドで草野球を興じる。人数が集まらないと3角ベースもしょっちゅうでした。
夢中で遊んでいてもユニフォームを着た大人たちがやってくると譲らなくてはいけない・・ブーブー文句は言うんだけど結局は取り上げられてしまう。
悔しかったな、、、。
川では、ハヨを釣り、カレキと呼んでた川海老を採る。夜釣りはウグイやミゾゴイ狙い。ピーヤの下に餌を入れた籠を沈めて鰻を取る作戦は、翌朝ワクワクしながら引き上げると、大抵なまずしか入ってなくてガックリするんですけどね。
川の隣の池で鮒を釣ったり、飽きると川で泳ぐ。学校水泳もこの川でした。


その時期になると下級生が怪我をしないように5、6年生で川原のガラスなどを拾って掃除するのです。遠泳テストは、先生たちが乗るボートとボートの間を何周するかで決まる。宮川の申し子の僕としては、その頃から、向こう岸まで行ったりきたりしてたので、やめと言われるまでどこまででも泳げた。そして翌日、朝礼での発表。
全校生徒が体育座りして、名前を呼ばれたら立ち上がる。100m合格者。200m合格者。このあたりのレベルは、ちょこちょこ居る。あっちからもこっちからもスクスク立ち上がる。500m合格者発表。固唾を飲む体育座りの連中。僕の名前に一同驚く。本当か?たけちゃん!手ぇだけ動かせて川の中は歩いとったんちゃうん?と、誰かが叫ぶ。僕はムキにはならず、そいつが想像する手足の仕草でチョロチョロ動き回る。爆笑。照れたけど実に誇らしかった宮川水泳。中学では、ギターを覚え、3人グループを結成しました。トンネルのゴミ溜めから拾ってきた傷だらけのギターは、ボディにペタペタと英字新聞を貼り付けて、お洒落に衣替え。
桜祭りの時、屋台が並ぶあの広場のあの場所に腰掛けてジャッカジャカとギターをかき鳴らし声を張り上げた。
そんな思い出いっぱいの宮川での今年の花火大会。雨の心配がみじんもない夜。打ち上げられた煙は、風に流されて、花火だけがくっきりと残る。まさに、うってつけの夜。僕たちは、病院の物干し場に佇んでいました。
蚊に刺されるから、いいよ私・・・。あまり乗り気でない義母を半ば無理やり車椅子に乗せて、4階の物干し場へと向かう。絶景ポイントがあるんだよと、院長先生に教えてもらった秘密の場所を探す。突き当たりを左に曲がり、炊事場を通り抜けると物干しざおが見えました。
ここ?訝(いぶか)りながら車椅子を押す僕。慎重にそこに入ると、すでに先客が10台位は、いたでしょうか。お年寄りの方がほとんどでした。僕たちは、見晴らしの良い場所を見つけカチッと輪止めをかけました。なるほど、はるか遠いところで花火が上がっている。見えるよ、確かに見える。
シュルシュルと上がり、パーンと開いた。スターマインは、どこかの遊園地から借りてきたショーのようで、迫力は乏しい。
テレビの中の映像を見ている気分で、どことなくぎこちない遠くの花火を義母は、目を細めて見ている。
たけちゃんのお母さんをほっておいて、私だけ悪いなと、すまなさそうに言っている。
今頃、宮川の河川敷は人、人で溢れているんだろうな・・・。
河川敷と言えば、昔は自動車の練習コースが放置されていたっけ。16の誕生日が来るまで毎日毎日練習したなぁ。おかげさまで高茶屋の試験場では、一発で合格。
ですから僕は、ナナハンでも乗れる免許証を16歳の時、僅か800円の出費で取得したんです。
しかも就職に有利と言うことで、学校を休んでも公休扱い。今じゃ、考えられない昔々のお話。


初デートも宮川、失恋して石を投げたのも宮川。時は過ぎて、子供と凧揚げに興じたのもそう。
ランニングの草野球小僧が、大人に蹴散らされたグランドでユニフォームを着た息子たちを応援した宮川の野球場。
子供の頃から、いつもここで花火を眺めていた。花火に仕込まれた落下傘が、風に乗りこのあたりに落ちてくる。走り回って追いかけた夏の夜の僕。

暑い夏。会場に向かう人々の早歩き。ワクワクドキドキ。興奮に包まれる瞬間を待ち侘びて気分は高揚する。それが僕のいつもの花火大会。
それにひきかえ、病院の物干し場は、人々の熱気で溢れかえっているとは言い難い。整然と並んだ車椅子の老人たちはものも言わず遠くの花火をただ無表情に見つめている。大きく開いた大輪の花。ジャワジャワジャワーッと音を立てて枝垂(しだ)れかかる。
僕は、この花火が無性に好きだ。だから隣の義母の反応が見たくてチラリと様子をうかがった。すると声にならない笑顔を投げかけて、うちわが重いと返してよこした。確かに箸よりは、重いだろう。しかし団扇が重いって、お義母さん。パタパタパタパタ。僕が小学生の頃、貴方は、娘の誕生会で目の覚めるような散らし寿司を僕たちに振る舞ってくれたじゃないか。炊き立てご飯に寿司酢をかけてパタパタパタパタ団扇であおぐ。最高に美味しくて、僕は料理する人に憧れた。あれから40年。確かに貴方は弱ってしまった。お義母さん、今年の花火は綺麗なの?この場所に来て、僕たちとこうしていることは、貴方にとって楽しいことなの?どうか教えて下さい。親孝行は、どうすれば良いのでしょうか?
義母も、まわりの老人たちも無言で夜空に視線を向けている。
みんな花火を見ているの?それとも、その向こうに浮かぶ遠い昔を懐かしく見つめているのかな?

今年の花火は、せつなくて、しみじみとした忘れられない花火となりました。

 

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