ボンヴィヴァン(伊勢外宮前 ボンヴィヴァン)

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プロフィール 河瀬毅 


僕が旅を続ける理由(07.04.20)

夏の終わり、氷見に旅行した。過ぎ行く夏を惜しむように、島尾海岸の砂浜では、子供も大人も入り乱れて最後の夏と戯れる楽しそうな光景が繰り広げられていた。
僕達が取った宿は、氷見でも高岡寄りに位置していて、地図で見ると富山湾の一番奥の部分。
しかも砂浜の延長線に建ち眼前が海の小さな民宿だった。
宿に着き、挨拶もそこそこにさっそく海岸に飛び出した。
遥か左には、沈んだ色で黒く大きな得体の知れない物体が横たわっている。
まるで恐竜の首のようだ。
行く手を遮る長くて黒い国。それが能登半島だとわかるのに大して時間はかからなかったが、軽い慄き(おののき)を感じ、思わず右を振り向いてしまった。
するとどうだ。海の向こうには標高3000メートル級の立山連峰が厳粛にそびえ立っている。
凛々しい屏風を立てたみたいだ。
あちら側から僕を見下ろしたら一体どんな光景が広がるのだろう。
日本海は何かが違う。太平洋で育った僕は、砂浜に佇みながら場違いな感情を抱いたのです。

市場を覗いた。有名な氷見のブリは、寒ブリの時期に楽しみを取っておく事にしてさっそく岩牡蠣をパクつく。
ふくよかな身とミネラルたっぷりの力強い味。豊潤な富山湾の海の宝石。
500円。700円。800円。殻の大きさで値段が違っていた。
息子達は、500円の籠の中から慎重に選び、800円のほうの身より大きな身を頬張っていた。
天地が、さかさまに置かれてなくて殻の下の部分がプックリと膨らみ、手に取るとズシリと重い牡蠣を選んだんだよな。
市場のおばちゃんは驚いていたけど奴らにとっては当たり前のこと。こいつらは小さい頃から、僕の後ろを歩いて来たんだから。昔のそんなことを脳裏に描いていたら、ふと思い出しました。
伊勢湾でも、伊勢の近くの大淀(おいず)と言う所で岩牡蠣(冬です。)が獲れたのです。
10年位前は、なまこ取りの漁師夫婦が軽トラに乗って僕のレストランに、真っ先に売りに来てくれていたんです。
本業のかたわらで牡蠣を見つけて引っ掛けて取ってたんでしょうね。
彼らの引退と共に大淀の岩牡蠣の最高の味は僕の中で伝説と化していました。
少なくとも能登の岩牡蠣を食べるまでは・・・。
「500円、700円、800円!食べてね、食べてね!氷見に来たならこの牡蠣を食べなきゃ!」
僕は、そんなかけ声につられて、食べてみた。感激を味わう事が出来て改めて良かったと思う。
おかげさまで氷見の牡蠣の美味さに、メラメラと闘争心の火がつきました。
大淀の天然牡蠣の美味さは、それに勝るとも劣らない。
今年の冬は何としても食卓に乗せたいと心に誓ったのです。

琵琶湖周辺の各都市で王国を誇る、お菓子屋さんを訪ねる旅をした時の事。
もう一つの目的は、シベリアから渡ってくる真鴨の仕入れ。解禁を待って観光協会で紹介してもらい、とある料理屋の暖簾をくぐりました。まず、味を知るのが肝心ですからね。
少しの鴨刺し。美味い・・・でも高い。少しの鴨鍋。・・・高い。
そして脂身は、どうしたの?ラーメンでも同じ。鍋に浮いた少しの脂が旨味となって美味しいのに・・・。

僕は旅人。あなた達が暮らしている街に興味を持ち、何時間もかけて車を走らせて来たんですよ。
お世辞でも美味しい美味しいと言っている客になんの興味も示さない。
研究を重ね、もっと進化して美味しく作ろうともしない人達には、こちらからも興味はない。
お勘定!と言おうとした目の前に自家製鮒寿司の字を見つけた。
そういえば、師匠のジャニーがまっとうな鮒寿司が食べたいと言っていたのを思い出した。
値段は高いけど勇気を振り絞り注文した。コトッと目の前に皿が置かれた。耳かき一杯じゃないけど、これだけ?
口に入れる。塩っ辛い。ご飯がトロトロ。
たかがこれだけの量なのに箸が進まない僕を見て、女将がそれは、漬け込んで3年目だと誇らしげに話してくれた。

店を出て、もう一度観光協会に行き、美味しい鮒寿司を販売している所を聞いた。
それなら、道の駅がお勧めなどと言う。訝りながらも辿り着き現物を手にして、販売員に聞いてみた。
これは琵琶湖の鮒寿司ですか?もちろんそうですわの返事にレジは通したものの、なんたってこっちは師匠に送る品物。いい加減な物を送っては僕の生き方まで問われてしまいかねない。
思い切って袋の裏に記載されている製造者の所へ電話して尋ねてみたんです。
僕は、大切な人に本物の鮒寿司を食べてもらいたいんだ・・・と。・・・誠意が通じました。
それなら、彦根キャッスルロードの宗知庵(そうちあん)に行ってください。まぎれもなく本物ですから。
すぐさま長浜から彦根まで車を走らせました。

旅は面白い。
観光協会。料理屋。再び観光協会。道の駅。製造業者と巡って、ようやく宗知庵までたどり着いた。
ご主人の話では、ウチは琵琶湖特産にごろ鮒を使っているとのこと。
少し味見をさせてもらったら、塩分もちょうど良くて、ご飯も形がしっかり残っている。美味しい。
やれやれ・・・無事、発送手続き完了。ジャニー喜ぶだろうな。
近くのクラブハリエでコーヒーを飲みながらメール報告をしたのです。ものの数秒で返信到着。
にごろ鮒って何だ?何故、そこの鮒寿司が美味しいと言われてるの?質問攻めです。
しまった・・・ジャニーの性格をうっかり忘れていました。あわてて宗知庵に戻り、今度は僕が質問攻めの番です。
すると、琵琶湖には、にごろ鮒、真鮒、源五郎鮒が生息していて一番数が少ないにごろ鮒が鮒寿司に適している。
その理由として、身が美味しいのは言うまでもないが骨が柔らかいのが特徴。
塩をして、ご飯が醗酵し骨まで食べられるようになるのに3ヶ月。これがベスト。
だから飯粒の形もしっかりしていて全然塩っ辛くない。
えっ?あの料理屋は、3年漬けたと胸を張っていたのに・・・。
その答えはこうだ。
真鮒、源五郎鮒は、数が多いから安い。でも骨が固い。ご飯を醗酵させて骨を柔らかくするのに時間がかかる。
そして、腐らさないために塩を多く打つ。
なるほど・・・三年漬ける。トロトロ。塩っ辛い・・・なるほど。
ハリエに戻り再びメールをした。安比高原より数秒後メール飛来。恐る恐る開けた。
お見事!これで次のコラムネタが出来たな!

旅は面白い。いけない人も素敵な人たちにも出会える。
例えば僕は倉敷のあのレストランや、札幌、金沢のそれにも、もう行かないかも知れない。

でも、同じ倉敷でも景観地区の小さなビストロなら近くに行けば又寄りたい。高山のプティレストランもそうだし
箱根も同じ気持ち。
僕は、そんな体験の全てを店のために捧げる。そして正直な気持ちで料理する姿をお見せしたい。

ここは、伊勢志摩。鮑を注文されたお客様には必ず活きた姿をみてもらう。
磯の香りと海の味を満喫したいのなら殻をはずしてミディアムにステーキすることをお勧めするし、火を通した鮑の柔らかさを堪能したいのであれば圧力釜で調理するので20分お待ちくださいと申し伝える。
伊勢海老も同じ。お客様の目の前で弾けて跳ねる海老だけを料理したい。
その事が僕が旅で得た教訓。僕はいつも真摯な気持ちを持ち続けるために旅に出る。
どんな事にも興味を示し質問する勇気を持ち続けたい。この食材。この料理のためだと思ったら、
しつこいと言われてもどこまでも追いかけてとことん追求して冷蔵庫に収めたい。
そんなふうにして巡り合ったんですよ。朝熊の猪も鹿も、イチボもミスジもトンガラシも。
シャラン鴨、焼津の手長海老、フォワグラ、魚、野菜・・・キリがないですね。メニューに載ってる物全部が、僕の宝物なんです。

旅人よ。伊勢志摩にいらっしゃいませんか?私達はあなた様を心より歓迎します。
レストランの意味をひもとくと、人々を元気に回復させる場所となっている。
そして僕も旅人。
その土地ならではの新鮮な産物を使った料理を食べてみたいし、旅の疲れを癒してくれる温かい接客が恋しい。


夢京橋 宗知庵

 

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